タグ別アーカイブ: 野田宇太郎

「野田宇太郎、散歩の愉しみー「パンの会」から文学散歩までー」展のギャラリートークに行ってきました。【町田市民文学館 ことばらんど】

[広告]

町田市民文学館 ことばらんど」で開催されていた「野田宇太郎、散歩の愉しみー「パンの会」から文学散歩までー」展でギャラリートークがあるというので、ふらっと行ってきました。

町田市文学館ことばらんど

町田市民文学館は、前々から興味があったのですが、なかなか行けず、今回が初めての訪問でした。
実は、野田宇太郎(のだうたろう)という人物は、今回初めて知ったのですが、「文学散歩」を考えた人(?)だということで興味を持ちました。
何故なら、わたしは高校時代、図書委員会で図書館報を作っていたのですが、その中に「文学散歩」のコーナーがあったのです。
と言っても、実は、その頃、どんなところを巡って文学散歩をしていたのか、全然思い出せなかったりします。
鎌倉とか行ったような気がするんですけど。
でも、その文学散歩の経験のためか、あちこち歩くのは大好きで、神社巡り(御朱印帖)とか、お墓参り(マーク・ボランや李方子さん等)とか旅に出かけると、どこかしら探しては訪ねていたりします。
最近ではイングレスのポータルになっている歌碑などがあったりしますよね。
その中でも、島崎藤村と与謝野晶子は、いろいろな街に行っても、何かしらの碑があったりして、びっくりさせられます。そのため、つい「ちょっと見に行ってみよう」なんて感じで、ふらっと文学散歩していたかもしれません。

そんな感じで、なんとなく興味を持っていたのですが、またいつものように「もう終わっちゃったかな?」とインターネットで探してみたら、今日3月20日までで、ギャラリートークが午後2時からあるということで、本当にふらっと出かけてきました。
ギャラリートークがある前にも、展示を一周見ていたのですが、やはり、初めて知る人物でもあったので、ギャラリートークを聴いて、とても理解が深めることができました。

野田宇太郎展 @町田市文学館ことばらんど

野田宇太郎という人は、九州で生まれ、仕事の傍ら、詩人として活動をしていた人で、30過ぎに縁あって、東京で編集者をするため上京してきたそうです。編集者時代は、渋谷や吉祥寺に住んでいたそうです。この頃が、ちょうど戦前~戦中の頃です。戦中も続いた唯一の文芸雑誌「文藝」の編集長をしていたそうです。
編集者時代に見出した作家のひとりが下村湖人だったそうです。下村湖人の『次郎物語』は、わたしが小学校高学年で初めて読破した長編小説です。野田宇太郎さんがいなかったら、あの『次郎物語』に出会えていなかったんですね。
また、サン=テグジュペリの『戦う操縦士』なども紹介していたそうです。サン=テグジュペリは『星の王子様』が大好きで、箱根の「星の王子様ミュージアム」はもちろん、ドラマのロケ地でもある(というか、ドラマを見ながら「星の王子様だ!ここ行きたい!」と思っていた)韓国の加平(ガピョン)の「プチフランス」にも行ったくらいです。これも一種の文学散歩かもしれません。

その後、町田に移り住んだ頃は、研究者としての活動が多くなっていたようですが、その第一弾が「天正遣欧少年使節団」についてだったそうです。「天正遣欧使節団」をはじめ、日本におけるキリスト教についても、少し興味はあり、昨年ちょうど伊東マンショの肖像画を見ることができたり、スコセッシ監督の映画『沈黙』※も見ていたので興味深かったです。
また『五足の靴』という、与謝野鉄幹がまだ学生で無名だった木下杢太郎北原白秋平野万里吉井勇の4人を連れて九州を旅した記録についても研究していたそうです。九州は、野田宇太郎の故郷でもあり、この旅で巡られたのが南蛮文化・キリシタンの文化の地だったそうです。この旅の経験から、北原白秋は『邪宗門』を書き、木下杢太郎は『南蛮寺門前』という戯曲を書いたそうです。先ほどの「天正遣欧使節団」の研究も、野田宇太郎が尊敬していたという木下杢太郎の研究を引き継いだものであったそうで、この旅ともつながっていきます。
そして、もしかしたら、この「南蛮文化を巡る旅」というのが、「文学散歩」のヒントにもなっていたのではないかと思いました。

文学散歩」は、野田宇太郎が、戦争により変わってしまった東京の街を歩き、失われていく文学の痕跡などを巡りながら、本にまとめたものでした、第一弾の本は、箱入りの豪華な作りだったそうです。その後、文庫版が発行され、これが大ヒットしたそうです。後に、ラジオ番組やテレビ番組にもなったくらいだそうです。また、小田急バスで巡る文学散歩バスツアーなども企画され、野田宇太郎が解説をしていたそうで、どれくらいの大ブームだったかが伺えます。

新東京文学散歩 漱石・一葉・荷風など (講談社文芸文庫)
by カエレバ

そして、もうひとつタイトルになっている「パンの会」ですが、明治時代の文学・美術を中心とした芸術家たちの集まりで、隅田川をセーヌ川に見立てて、隅田川の近辺で集まっていた会だそうです。ちなみに「パン」は牧神のパンの方で、食べる方の小麦粉のパンではないようです。この「パンの会」に、先ほどの『五足の靴』の北原白秋、木下杢太郎、吉井勇らが参加していたというつながりもあるようです。
この隅田川沿いのゆかりの地を巡るコースも「文学散歩」に入れられているそうです。

またこの「パンの会」のメンバーでもある石井柏亭(いしいはくてい)や、「文学散歩」の挿絵を描いた織田一磨(おだかずま)、木村荘八(きむらしょうはち)などの絵も飾られ、ランプの灯りに照らされる新しい時代の東京の風俗を感じることもできました。
そういえば、「パンの会」の会合の絵を描いた木村荘八ですが、実は、その当時は中学生だった(?)とかで、本当は参加していないのに、自分を真ん中に大きく描いていたのだそうです。兄である木村荘太がメンバーで、「パンの会」に憧れていたようなのですが、その兄は後ろに小さく描かれていました。

このように、いろいろなことに関わっているように思える野田宇太郎ですが、それぞれが影響を与え合って、関連しあっているのも感じられました。これも、ただ展示を見ていただけではわからなかったと思います。今回のギャラリートークは、とても興味深く、いろいろな関係を知ることができました。

そして、また、自分の「散歩好き」も認識したので、文学に限らず、ロケ地巡りや、お墓参り(「掃苔」”そうたい”と言うらしい)、神社巡りやお城巡りなど、「いろいろなところを歩いて、ブログに書いていくことも意識してやっていきたいな」と思いました。

※「町田市文学館ことばらんど」は、『沈黙』の原作者である遠藤周作氏が亡くなったときに、町田市に蔵書や遺品が寄贈されたことがきっかけで出来た施設だそうです。

[広告]